1杯のコーヒー

誰にも教えない私のパワースポット、それは東京国際フォーラムの中庭。

程よい間隔で植えられたヒノキの葉から、キラキラと朝日がこぼれ落ちる。中庭の端から端までサーッと吹き抜ける心地よい風。一時たたずめば心身の全てが浄化されるようだ。

毎朝、ここを通って密かにエネルギーチャージしている。遠距離通勤は嫌だとずっと思っていたけれど、遠いおかげでここを毎日通れるんじゃないかと気付き、喜びに変わった。

今朝は少し肌寒く乾いた風が吹いており、ようやく訪れた秋を全身で味わった。

ふと脳裏に浮かんだのは、いつもここにいる移動販売のコーヒースタンド。今日もいるかな?とキョロキョロすると…いたいた。ゆっくり飲む暇がない・コーヒー1杯に500円は贅沢な気がすると躊躇する私は、横目でみながら素通りするのが常だった。

しかし今日の私は違った。

最高でも10分はゆっくりできる時間がある。いつも頑張っている自分に、たまにはご褒美をあげよう。

秋風小僧がささやいたのか。ありがとう。かたくなな私の心とがま口を解き放つなんて、あなたはなんてすごいのでしょう。そう、それはまるで『北風と太陽』のようだ。あのときは太陽が勝ったけど、今回は北風さん、あなたの勝ちです。

そうと決まると、コーヒースタンドに向かっていくところから、楽しみが始まる。今日の私はセレブのよう。秋を感じながら、1杯を楽しみます♥️そう宣言しながら近づく。そばには誰もお客さんがいない。お店の人は…座っていて顔がみえなかったが、こちらに気づくととびきりの笑顔をみせてくれた。

「本日のコーヒー1杯  400円」

500円じゃなかった。勝手に得した気分になった。

たった一杯のコーヒーだけど、心を込めてドリップしてもらい、来てくれてありがとうと内側から溢れる笑顔で渡されて、それだけでも心が満たされた。

さらにパワースポットのベンチに腰掛け、香ばしいかおりを楽しみながら、あつあつをすする。今日の私は満タンを越えて満ち溢れた。

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